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この骨は僕の生を刻んでいるんだなぁと思ったのだ。何を食べ、どう動いていたか…………愛しいと思うのは生への執着なのかもしれない。なんて思うと何だか笑えてくる。
――あんなに死にたがっていた筈なのに…………皮肉なものだなぁ。
僕は死にたかった筈だし、僕は自分なんて大嫌いな筈だった。少し上を向いた鼻が嫌いだった、華奢で折れてしまいそうな身体が嫌いだった。イケメンでも不細工でもないこの顔なんて最悪だったし、バカでも天才でもない自分の能力に呆れていた。
僕は僕なんて、どうでもよい人間だと思っていた。どっかで野垂れ死んでしまえばいい人間だと思っていた…………それがなんだ、このいつの間にか降ってきた雨に打たれる骨が愛しいなんて。
もう、戻れない器に未練でもあるのだろうか…………僕は苦笑いすると、懐かしい河原を歩き出す。
きっとあの河原では今だって僕が白々しく空に手を伸ばしているんだろう。
骨 中原 中也
ホラホラ、これが僕の骨だ、
生きてゐた時の苦労にみちた
あのけがらはしい肉を破って、
しらじらと雨に洗はれ、
ヌックと出た、骨の尖。
それは光沢もない、
ただいたづらにしらじらと、
雨を吸収する、
風に吹かれる、
幾分空を反映する。
生きてゐた時に、
これが食堂の雑踏の中に、
坐つてゐたこともある、
みつばのおしたしを食つたこともある、
と思へばなんとも可笑しい。
ホラホラ、これが僕の骨――
見てゐるのは僕? 可笑しなことだ。
霊魂はあとに残つて、
また骨の処にやつて来て、
見てゐるのかしら?
故郷の小川のへりに、
半ば枯れた草に立つて、
見てゐるのは、――僕?
恰度立札ほどの高さに、
骨はしらじらととんがってゐる。
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