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お姉ちゃんはお菓子を作るのが好きで、毎週末、何かしら作っている。フツーと違うのは計量カップやはかりを使わないこと。計量スプーンだって縁の上をすり切ったりしない。続けざまに掬ってボールにいれる。何杯か数えているかどうかも怪しいし、そもそも作っている間はレシピをまったく見ない。
それでいてケーキはふっくらと膨らむし、プリンはなめらかに出来あがる。生地のてかり具合や泡立て器の手応えでうまくできているかどうかわかるんだって。天性の才能と言っていいと思う。
今作っているのはエクレア。小麦粉とバターを混ぜてチンしたタネに卵黄を少しずつ加えてかき混ぜている。ぽってりとしてきたところで、満足そうに手を止めた。オーブンの鉄板の上に絞り出し、霧吹きで湿らせてから焼き始める。
お姉ちゃんはオーブンに背を向けてカスタードに取りかかった。見なくても音や匂いで焼け具合がわかるらしい。横から覗きこむと、タネは一度表面がすべすべになった後むくむくと膨らみだし、カリフラワーみたいなもこもこした形に焼き上がった。お姉ちゃんは絞り袋に詰めたカスタードをシューに注入し、湯せんしたチョコレートで上からコートして、出来あがり。
お相伴にあずかって美味しくいただきました。でも、チョコレートが甘さ控えめなのがちょっと物足りなかったので、ネットの発信では少し辛口のコメントにした。『画竜点睛を欠く』ってね。そうしたら……。
「ねえ、おいしいって食べてたじゃない。これはどう言うことよ」
お姉ちゃんは本気で怒っていた。不思議に思って、突きつけられたスマホの画面を見ると……、
『チョコが甘くないのが残念、我流天性を欠くってところ』
なに、これっ? あたしこんなことは書いてない。どうして……。でも、文字を見つめているうちに原因がわかった。
「ごめんなさい、変換ミスなの。『がりゅうてんせいをかく』って言うでしょ。ほとんど完璧だけど少しだけ足らない部分があるって……」
お姉ちゃんはあたしをたっぷり三分間は睨みつけた後、口を開く。
「あのね、それは『がりょう』と読むのよ」
落ちついた口調だけど、目は怒っていた。
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