〈三〉

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〈三〉

 便所虫が米びつに飛び込んだのを見て俺は小さく叫び声を上げた。人差し指の先っぽでつまみ上げると玄関のドアを小さく開けて追い出し、視線を部屋に戻す。深淵と名乗った女が寝息を立てて、カビ臭ええんじ色した布団にくるまって寝ていやがる。  弁済の意味を考え、50万円は必要だろうと欲を出した結果、あと20万をどうやって稼ぐか、実を言えば俺は見当がついていた。いや、この女にもついているのだろう。 「おい、起きやがれクソアマ。仕事の時間だ」 「ん……ん……」  おはようのチュウをおねだりしている。どこの誰と間違っているのか。こんな女に、精液便所以外の使い道はなさそうだからきっとそのスジの奴らと間違っているんだろう。 「ほれ、朝飯だ。テメエはこれからクッセエ親父とのブッキングで一発10万、稼いでもらわなきゃなんねえ。俺でも食わねえコンビニのしみったれたカルボナーラだ。クサレまんこはこういうの、好きだろ? あ?」  頬をぺちぺち叩いて、首根っこを引っ掴むと童の如く泣き叫ぶもんで、困った俺は仕方なく荒っぽいキスをしてやった。ガチガチと前歯のぶつかる音。恋人でもねえのにこんなことするのは心の奥深く、泥にまみれた良心ってやつが痛む。  痛むか? 痛まねえよ。
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