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まだ十本は入っているであろう煙草の袋をぐしゃりと握りつぶすと乱雑に置いたままのゴミ袋へと投げ捨てた。窓から身を乗り出して向こうで燃えている一軒家の炎を眺める深淵の、むき出しになったケツを見て俺はため息をついた。
「お前の身体、綺麗だな」
「なに、いきなり」
うっせえ。言ってみただけだよ。
所在なさげにうろうろする指は明らかにたばこを求めていたが、しばらく火を見る気も起こらなそうだった。仕方なく後ろから深淵のオメコに指を突っ込んでやると小さく嬌声をあげて彼女は跳び上がる。
「……する?」
「しねえよ」
「ふーん。変な深谷」
空になったカルボナーラの容器は、まだテーブルの上で輝きを放っていた。あれだけ必死になって走ったモンだから容器は外まで油とクリームでテラテラになって、何も知らない深淵に愚痴をこぼされたほどだった。
普段なら、少しでも愚痴をこぼされたら俺はカッとなってこの女の頬を一発ひっぱたいたかもしれない。が、そんな気は起こらなかった。逆に抱きしめさえしてしまったのだ。
彼女は言った。
「ほっぺた腫れてるね」
「うっせえ、照れてんだよ」
「照れる? やっぱり今日の深谷おかしい。氷嚢作ろうか?」
「いや……」
……今日はこのままでいい。
「やっぱり、抱いていいか?」
「ほら結局、ヤるんじゃん」
「そういうモンなんだよ、男ってのは」
虚飾と、ションベン。ケツの穴。
バチバチにイかれた頬もすっかり痛みの引くくらい血液が股間に集中する。体を重ねて、腰を打ち付ける度俺は思った。こいつが生きていて良かった、と。今度は肉便器ではなく一人の人として、深淵を愛した。外ではまだごうごうと燃える音がする。じきにここらも避難勧告が出ることだろう。そして、行方知れずとなった彼女が発見され、次に俺が行方を眩ます……そういう手筈だ。もう、変えられない。
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