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煙の臭いが風に乗って鼻孔を刺激した。
「わたしを捨てるくらいなら、もっと乱暴でよかったのに」
そう言って深淵は泣いた。深淵にずぶずぶに入り込んでしまった俺も気付けば目からションベンちびっている。ああ、そうだ。そうだとも。俺はこいつが必要で、大切だから切り捨てるんだ。どっかで幸せになってほしいから捨てるんだ。自己満足じゃない。分かりきったことだろ?
「お前もう、家に帰れよ」
なんと言われようが、俺は懲りずに彼女を説得する。より一層艶やかに映った彼女の涙を指でなぞって。
「じゃあ、深谷も一緒に来て」
「どこへだよ」
「私の部屋よ」
「……む」
「無理とは言わせない。わたし、バカだけど分かるの。この部屋はじきに燃えてなくなる。そうしたら深谷の住むところは?」
「そんなもん、実家に帰りゃあ……」
「ダメ、駄目よ!! 一緒に来てよ!! 嫌なの、深谷がいないと寂しいのよ!! お願いだから!!」
とうとう駄々をこね始めたクソアマ。もうこんな奴はどうにだってなればいい。俺と一緒になって不幸にでもなればいい。
タンタンタン、とけたたましく階段を上る音が聞こえる。
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