〈二〉

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〈二〉

 2週間の休みを願い出たのはこれが初めてだった。ちょくちょくくすねていた金が積もり積もって30万に達したところで不審に思ったマスターがバイトたちに事情聴取をするという旨を聞き居ても立ってもいられなくなった俺はマスターに休暇の申請を出した。 「ふむ、そうか。君目当ての客などいないからね、バーテンはほかにいくらでもいることだし別に構わないよ。ただし2週間後、必ず出勤すること。いいね?」  その辛辣な言葉たちが暗に俺を犯人だと半ば決めつけているらしいことに気付かぬほど、俺のオツムは腐っちゃいないようだった。  1人でラブホテルを出る違和感。  2週間休暇の初め3日間を使ってようやく得た獲物は50過ぎの小汚いマダムだった。これがマダム然としたババアならどれほど良かったろうか。その辺をうろついてる野犬に獣姦されたほうが幾分かマシだったろうと思うほどに醜悪なヤツだったのだから。  朝シャワーで入念に洗ったにもかかわらず、まだ体中からアンモニアが臭っている錯覚に、路肩にゲロを吐き散らした。  ネオン街を抜け、自宅まであと少しというところでパチンコ屋「コスモ・スペース」のぎらついた看板が目に入る。記憶の奥底から押し寄せるキレイな七色の光。ゲロとションベンにまみれ尊厳の欠片もない俺にとっちゃあ魅力的以外の何モンでもない。返すつもりの30万などすっかり忘れて汚れた金を握り絞めると自動ドアをくぐった。  俺の座ったスロット台の数字は悪くないものだった。正午まで単発を続けて引いたあと、確変からのビッグボーナスを引き、あっという間にドル箱が積もっていく。  夕方になり、換金してみるとなんの因果かきっかり30万。元金と合わせて39万4千円。金を返して家賃を差し引いてなおおつりが返って来るんだから上々だろう。俺はポケットに札束を突っ込んで帰る足を速める。
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