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しばらくして、マスターの乾いた指先で、枚数を数える音が聞こえてきた。ドクン、ドクンと心臓が徐々に早鐘を打つ。
1枚、ドクン。
2枚、ドクン。
3枚、ドクン。
4枚、ドクン。
「……顔上げろ」
それを言われて、自分が小一時間ずっと床しか見ていなかったことに気付いた。穏やかさの中に険しさを残したままのマスターが、俺をまっすぐ見据えている。
「何やらかした……?」
「……えっ?」
「えっ……じゃねえぞこのクソガキャアア!!」
静寂が恋しくなった。蹴っ飛ばされた俺は床に激しく後頭部を打って、痛みに転げまわった。目の前に星がチラついて、状況が認識できない。
金をもらって満足したはずの彼がキレている意味が、分からない。
「金に困って30万も盗むようなテメエがよお、100万なんか用意できねえのは分かりきったことだろうがよお……何やらかした? テメエの所得じゃあ、サラ金でもこんな大金貸してくれねえよなあ……コソ泥以上の何か、大変なことをやらかしたんじゃねえのか……ああ!?」
髪の毛を引っ掴まれて、容赦なく拳が叩き込まれた。刺激された涙腺から否応なく涙が零れてきたがそれ以上にマスターは泣いているようにも見えた。
「テメエはもうどうしようもねえ、ずぶずぶに深淵に入り込んじまったようだ……関わりたくもねえ。30万引いて70万、手切れ金だ。持って帰れ。そんな汚れた金俺は、受け取らねえよ」
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