チョコ掛け

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時給800円、土日祝日休み、3交代制、交通費なし。 中年の私に仕事はなく、派遣社員としてチョコレート工場で働くことになった。月の給料は、10万ちょっとになる予定。一人暮しの私には、かなり厳しい賃金だ。 初日出勤の真夜中、私は、柿の種というお菓子を丸い釜に入れて、チョコレートを掛け、柿の種全体をチョコで覆うようにする作業をすることになった。カッパを着てチョコレートまみれになりながら、2時間かけて、柿の種にチョコ掛けをする。それを2回すると休憩。そして、掃除、片付けをして終わりになるのだが、私はこの作業が、僅か1分で、いや、カッパを着た瞬間から、直感的に嫌だなあと思った。 それでも、隣の人や、派遣リーダーにコツを聞きながらするのだが、嫌々作業をしているから、なかなか上達しない。手際のいい人やベテラン達は次々と終わり、片付けをして休憩に入っていくのだが、私だけは、いつまでもチョコ掛けが終わらず、とうとう社員の若い女性に、 「後は私がするから、休憩して下さい。」 と言われてしまった。それからも私は、2週間ぐらいチョコ掛けをしたが、あまり上達せず、いつも出来上がるのが最下位で嫌になった。 私と同じぐらいの年齢で、反対側でチョコ掛けをしている村上さん(男)も、チョコ掛けが遅く、また彼は掃除とか片付けのとき、ボウッとただ見ていることが多かったので、次期社員になるであろう10代後半か20代前半の若い男に、陰で、 「あいつは役に立たん。」 「見ていて腹が立つ。」 と言われていた。社員達や派遣社員達も、仕事ができるその若い男に同調していた。 やっと仕事が終わり、私と同じ派遣会社で、私と同じく今日から働いている20代の若い男と、更衣室で会い、少し話をした。その男は、チョコレートを包装する作業で、私のようにチョコまみれになることもなく、体も楽で人間もいい人ばかりと、気に入ってるようだった。 その後も、その男は包装作業の楽な作業場ばかり。一方の私は、柿の種やアーモンドにチョコ掛けをする、チョコまみれになる作業場ばかり回され、私は同期の若い男と話す度に殺意を覚えた。顔は笑顔だが心の中では、 「なんで若いお前は、楽で汚れない作業場ばかりで、年寄りの俺は、苦しくて汚れる作業場ばかり回されるんだ!!」 「お前もチョコ掛けしろや!!カッパを着てチョコ掛けしてみろや!!」 と叫んでいた。
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