融けない氷

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時は平安時代の頃。 その女性は、とある貴い方に仕える宮女だったようです。 まだ、幼さの残る可憐な少女でした。 名は秋津。 秋津の家は公家の親族であったものの故あって没落し、平民に成り下がった家でした。 彼女には、小さい頃から仲の良かった幼なじみの友だちがおりました。 名は尋。 二人は共に遊び、同じ時を過ごすうちに互いに恋心を抱くようになりました。 とある日、秋津たちの住む近くを、名のある公家が牛車で通りかかりました。 公家は、そこで秋津を見つけ、その美しさを見初めます。 その日のうちに従者を遣いに出し、秋津の両親に娘を召し抱えたいと申し出ました。 没落し、日陰を生きることを強いられてきた両親は大変に喜び、娘を送り出すことを承諾しました。 こうして、互いに想い合うまだ花開く前の蕾のような淡い二人の恋は無情にも断ち切られたのです。 それから五年の月日が過ぎ、秋津は公家の屋敷でさらに美しく成長を遂げました。 公家は、近衛中将の官位にある人物で、秋津をとても大切にしてくれました。また、他の宮女たちも時に厳しい時もありましたが、誰もが優しく、秋津は幸せな日々を過ごしました。
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