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辺りは一面の銀世界でした。
悪いことに、少し歩いたところで雪はすっかりと止んでしまいました。
これでは二人の足跡は消えません。
屋敷の者が裏門から続く男女の足跡を見つければたちまちに追い付かれてしまうことでしょう。
「月…」
手を引かれて歩く秋津は、空を見上げて呟きました。重い雲が晴れ、空には煌々と輝く月が覗いたのです。
その輝きを一面の雪が反射して、もはやその姿を確かめるのに行灯も要らないほどでした。
「秋中将ー!」
「秋姫様ー!」
追っ手の者たちの声が聞こえて来ました。
もはや追いつかれるのも時間の問題です。
「尋…もはや逃げ切れません。捕まれば貴方は死罪、私も只では済まないでしょう。いっそのこと、ここで二人で添い果てましょう」
秋津の言葉に尋は少し驚いたように目を見開いて、傍に寄り添う幼なじみの顔を覗き込みました。
そこには、強い覚悟が見えます。
「わかった。許せっ!」
尋は、腰に佩いた剣を抜いて一閃、秋津の首、頸動脈を斬り裂きました。
噴き出す鮮血が一帯の雪を紅く染めて行きます。
倒れる秋津を尋は呆然と見下ろしました。
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