101階でのプロローグ

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「クッソー……今日も……仕事か―――っ!」  夜の摩天楼に、一際高くそびえる100階建ての高層マンション。  その一室。”101階“の部屋に、今日も彼の怒声が響き渡ります。  彼は全身を映し出す大鏡の前で、全裸の姿を晒しながらそう吐き捨てると、持っていたコードレス電話をベッドへ放り投げました。  因みに彼の名誉を守る為ここで注釈を入れておくと、彼はナルシストでも露出狂でもありません。  全裸で、しかも鏡の前に立っていたのは全くの偶然。風呂上りに下着を取りに来たところ、電話が鳴り、それに対応していただけの事なのです。そしてその場所が、たまたま大鏡の前であったと言うに過ぎませんでした。    だけど、ボックが言うのも憚られるのですが、彼は非常に素晴らしい肉体を有しています。  まるでギリシャ彫刻の一つと見紛う程、彼の体には理想的な筋肉が盛り上がり、逆に不要な肉は一切見当たりません。  スリムであり、それでいて筋肉質。所謂 “細マッチョ” と言った感じでしょう。  女性がウットリする肉体の持ち主は、やはり女性の目を引く甘いマスクを有していました。  短く刈り込まれた黒髪は美しく、闇が覆われたこの部屋においても、僅かな光に反射し煌いています。  少し童顔の面持はありますが、逆にそのギャップが女性ウケする事間違いありません。  ただし、彼は真っ当な職業に就いている訳では無いのです。故にその目は、かなり鋭い物となっています。だけどそれすらも、彼の端正な顔立ちを際立たせる特徴になっています。 「こっちが反論出来ないのを良い事に、無理難題ばっかり押し付けて来やがって……」  ―――ガチャッ……ギギギッ……  ブツブツと文句を言いながら、出発の準備を整える彼、渡会(わたらい) 直仁(すぐひと)様は、シャツとパンツを身に付けると、「隠し部屋」への鍵を開錠し、その扉を開きました。  何故、隠し部屋が存在するのか……。  ―――ここには、彼の秘密が存在しているに他ならないからです。
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