指先に微熱

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賑やかな商店街を抜けると、マンションやアパートや一戸建てが立ち並ぶ住宅街に入っていて、 雨でひっそりと静まり返ったその場所に来て初めて、長い時間お互いに無言だったことに気づいた。 もう少し歩くとT字路に辿り着き、 カズマは右へ。 私は左へと別れる。 最後の電信柱に着いた時、カズマがポツリと声を漏らした。 「お前、宇野にコクられたの?」 「えっ?!何で知って……」 「聞こえたんだよ。お前らが帰りに喋ってたろ」 帰りのミユとのやりとりを思い返した。 でもあの時ミユは確かに声を潜めて話していたはずなのに……。 「どうすんの?あいつと付き合うの?」 「わかんない。だって、宇野くんのことなんてよく知らないし…」 ついさっきの人生初の告白を思い出し、ドクンと心臓が跳ねた。 でも、何で聞こえたんだろう? ふと、横のカズマを見上げると、 「っ!」 傘の柄を握る私の右手をじっと見つめる横顔がそこにあった。 綺麗だと思った。 なんて優しい目で見てるんだろうと思った。 そして、見てはいけないものを見たような気がして、咄嗟に顔を背けた。 「まだ、指痛む?」 「えっ?」 「ずっとばんそーこーしてっから…」 「かっ、関係ないでしょ」 「……何だよ、それ」 そうだよ、関係ないじゃない。 「私のことより自分の心配しなよ。ミユ、今日長瀬先輩と一緒に帰ってるんだよ?付き合っちゃうかもしれないんだよ?いいの?ミユがそうなっても……」 一気に捲し立てた私に、カズマは不思議そうに「ミユ?」と首を傾ける。 「ミユってさ、美しい雨って書くんだよね。髪だって長くて綺麗で、名前まで綺麗でさ………」 「あぁ、お前がいつもツルんでる…」 「何よ、それ」 わざとらしい言い方しちゃって……。 「何で今杉崎の話なんかすんの?」 「……」 「それこそ関係ないじゃん」 あー、そうだよね! カズマが誰を好きだろうが私には関係ないもんね! 「でも……」 「でも?」 「だって…」 「だって?」 「……」 どうして、ミユのあんな小さな声を聞き逃さなかったの? どうして、いつも愛おしそうにミユのこと目で追ってるの……。
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