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保健室に入ると同時に、5時間目の始業のベルが鳴った。
アキヨシ先生と呼ばれてる保健の先生は、名字なんだっけ、下の名前なんだっけ?
そんなどうでもいいことに気を取られてる間、
「はい、お前はここに座って!」
肩をぐいぐいと押さえつけて、灰色の椅子に腰かけさせた。
「アキヨシ先生いないみたい。ちょっと待ってて」
「あ、うん」
病人って何だろう?
そういえば、誰もいないな。
腰かけた灰色の椅子をくるん、と半転させた。
ベージュっぽいカーテンが揺れる硬そうなベッドは2つとも空いていた。
カズマはどこ行ったんだろう、ともう半分回転させた私の前に、
アキヨシ先生の手を引きながら保健室に戻って来たカズマの姿が見えた瞬間、
景色が歪んだ。
怒ってるのかな?
眉間にシワなんか作っちゃってさ。
“千恵っ”
カズマが私を名前で呼んでる。
久しぶり、だな。
あぁ、違う。
昨日も名前で呼んでたな。
それだって、そんな些細なことだって、本当はすごく嬉しかったのに、なんか急に大人に見えて逃げ出しちゃうなんて。
あ、そっか。
昨日の私のこと、呆れちゃって怒ってるんだな。
“千恵?立てる?”
あれ?今度はすっごく優しい言い方だ。
怒ってるわけじゃないみたい。
だって、見たことない顔してる。
“こっち、ほら、横になって”
“気持ち悪いとかない?痛いとこはない?”
それは大丈夫。
ヤダなーって思うのはあるけど。
制服、せっかく時間かけて乾かしたのにシワになっちゃうかな、とか、ベッドの枕は嫌いだな、とか。
「千恵…………」
それからね、
私を上から見下ろすカズマのその顔が、
今にも泣き出しそうなのが、
心臓を締め付けて、痛くて苦しくて、
ヤダなって思うよ。
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