指先に微熱

16/19
前へ
/19ページ
次へ
「歩けそうなら帰っていいって。どう?」 「うーん」 顔は火照るのに背筋がぞわっとする、風邪特有の身体の変化はあるけど歩けないことはなさそうだった。 「大丈夫そう、かな」 「そっか。なら帰る前に病院行くよ」 「病院?」 「さっき母ちゃんに午後の診察聞いて、どうにかねじ込んでもらったから」 「え、おばさんのとこ?いいよ、大丈夫。家で寝てればこんなのすぐに…」 「ダメだって!」 「……」 「連れて来いって言ってるし、それに」 言葉に詰まって俯くと、カズマは「オレのせいでしょ?」と消えそうな声で言った。 「違うからっ」 「傘、ささないで帰って…オレのせいじゃん」 「あれは…」 「手、触っちゃったのは、ごめん。何か、つい、うっかり」 「ついうっかり、で触らないでよ」 「ごめん」 「……」 「あのさ、勘違いしてるみたいだから言うけど、オレが杉崎のこと好きみたいに思ってない?」 「違うの?」 「違うよ」 「でも、いっつもミユのこと見てて…」 言ってから、しまった、と思った。 「それって、お前がオレのことずっと見てるってこと?」 「……」 黙り込んだ私を見て息を吐くように笑った。 「子供の頃からさ、お前、髪短いじゃん?」 「うん」 「杉崎くらいに伸ばしたら、似合うんじゃないかなぁって思ってさ、」 一瞬だけ私をちょっと見ると、その視線はゆらゆらと宙を泳ぎ、 「髪の毛結ぶヤツ、ほら、ゴムのさ、何て言うのか知らないけど、そういうのあげたら使うかなとかね、そういうの考えてた」 口を尖らせたまま、保健室の天井の変な模様を見つめていた。 私の方から見える顎のホクロと、そこから首元までのシュッとしたラインが綺麗で、 こんな時にそんなところを見てまた大人の男の人を意識してる自分が恥ずかしくて俯いた。 ベッドが少し揺れた。 「逃げんなよ、今度は」 躊躇うように伸びてきたカズマの手が、 顔の直前で止まった。 「っ!!」 何をされるのかとキュッと目を閉じた私を見て、 「熱、みるだけだよ」 そう言って、ふふっと笑った。 ペタッとおでこに貼り付いた私の前髪を丁寧に掻き分けた指先に、 キミの微熱を感じた。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

351人が本棚に入れています
本棚に追加