恋つらら。

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「……うまい」 譲はもう一粒もパクっと平らげて、雪の手にした紙袋を覗き込む。 「足りないな~もっと無いの?」 「あ、あるわけないじゃん」 スーパーで並んでる一山いくらのイチゴじゃないんだよ。 時間かけて徹夜して作り上げた バレンタインチョコ なんだから。 雪がちょっとムッとしたら、 譲はニヤリと笑って、自分の鞄からコロッケパンを一つ、取り出してみせる。 「…………嘘。パン買ってたのあるし」 「あ」 「雪は俺が困ってるといつも助けてくれるから、腹減ったーって言えば、そのチョコくれるか、賭けた」 雪、真っ赤になる。 「もう」 「ありがとな」 雪の頭を譲はいつもみたいにぐしゃぐしゃにするんじゃなくて、優しく撫でてくれて。 初めてのことに雪は嬉しくて顔が火照る。 「さ、行くぞ。マジ寒い」 そう言って雪の手を繋ぐと、歩き出す。 譲と手……繋いでる。 雪は信じられない事実に心臓がドキドキと騒ぎ出す。 譲はなんともないの…………? こんなにドキドキしてるの私だけ……? 『俺、好きなやつからしか、チョコ欲しくないし』 あれが本心なら、譲はわたしの事…… 「もしかして……雪、俺の事ずっと待ってた?」 「え?」 「手、すげえ冷たい」 「ご、ごめん……」 「来年はもう待たせないから」 「え?」 譲はイタズラっこのような眼差しを向けながら、雪の手を強く握り締める。 来年のバレンタインのことを言ってるんだ。 雪は嬉しくなって譲の手を握り返した。 「お前んち、夜はハンバーグかな?」 「え?」 「卵と牛乳だろ?」 「あ、そうなのかな」 「もし、当たったらさーーー」 譲は頭を掻きながら、照れたように言う。 「デートしようか」 「えっ、いいの?」 「どこ行きたい?」 「遊園地!」 「え……まだ寒いから映画とかにしようぜ」 「じゃ、暖かくなったら行きたい。譲と観覧車乗るの、ずっとずっと夢だったんだ!」 「え、俺と?」 「うん!」 譲は恥ずかしげにまた頭を掻いた。 雪はニッコリ笑って、大好きなその横顔を見上げながら、ふっとさっきの渡り廊下に下がってた 立派なつららを思い出した。 そして、思ったんだ。 私が譲の春になりたい、って。 ー完ー
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