恋つらら。

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バレンタイン当日。 放課後の正門脇に立ち、金谷雪(17)は、さっきからずっとそわそわしていた。 帰宅する生徒達の波に知っている顔がないか気が気でないのだ。 今日は人生17回目のバレンタインデー。そして雪が今待ちわびている初恋の君、高橋譲(17)に小学校時代より10年続く切なる想いを伝える日だ。 今、雪の手にした水色の紙袋の中には 昨晩寝ずに作った手作りのチョコトリュフが入っている。 譲が好きな抹茶とキャラメル味のトリュフは雪の人生初めての手作りである。 雪はかれこれもう一時間もかじかむような寒さの中、部活帰りの譲がいつものように学校の正門を通りかかるのを首を長くして待っていた。 腕時計の針は既に午後6時を過ぎようとしていた。いつもなら5時には、サッカー部のジャージをスラリとした長い手足を隠すように着こなした譲が部活仲間と連れ立って出てくるはずなのに。 今日に限って部活が長引いているのかな? 雪が冷えきった掌を白い息を吐きながら擦り合わせていたとき、いつも譲とふざけあいながら出てくる部活仲間達が数人、校舎から出て来た。 雪ははっとする。 心臓がドキドキ波打ちはじめる。 だけど。 あれ……いない? その中にいつも真ん中にいて部活仲間と笑いあっているはずの譲の姿はなかった。
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