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今朝はいたよね。
だって、おはよ~って眠たそうな声で
後ろから今日の為にセットしてきたお団子頭、いつものように、ぐしゃぐしゃ潰されたし。
昼休みもいたよね。
隣のクラスなのに、お弁当の箸入ってないからって、割り箸あるかとか、うちのクラスまで乗り込んで来てたし。幸い、使ってなかった割り箸を渡せたけど、その時にさりげなく廊下で渡せば良かったのかな……。
雪は手にしたチョコを見つめ、
しばらく考えた。
まさか急に具合悪くなって
部活休んで帰っちゃったとか?
そうだ、下駄箱確かめてみよう。
帰ってたら靴は無いはず。
雪が校舎に戻り、譲の下駄箱を見ると、いつもの靴はまだ入っていた。
まだ帰ってはいない。
まだ部室にいるのかな?
行ってみよう。
渡すなら今日しかないんだから。
雪はサッカー部の部室に向かおうと人気の無い渡り廊下を歩いていた時、すぐ脇のグラウンドの隅の水道の前に立つ人影に気がついた。
ーーー譲?
讓は長めの前髪をかきあげて困ったような横顔をしている。……やっぱりカッコいいな。
無駄に長い手足も、切れ長の瞼で形作られた涼やかな目元も、いつも雪をからかってばかりの薄い唇も全部が見るたびに雪をキュンとさせる。小学校の時から近所でも美少年と評判だった譲は雪と同じ公団に住んでいて、近所の公園で幼少期からつるんで遊ぶ、幼馴染だった。
そんな譲はいやでも目立ち、人当たりも優しく、人懐こい気質も相まってか、男女問わずにモテた。
でも、譲にはいまだかつて彼女ができたことがなく、雪は安心していた。
のに、である。
讓の前には一人の女の子。
可愛らしい顔のあの子は、確か譲と同じクラスの女の子じゃないかな。
その子は俯きながら、讓にピンクのリボンのかかった紙袋を差し出している。
雪の歩みが止まる。
あれはもしかしてーーーバレンタインチョコかな。
だとしたら、あのシチュエーションは
『告白』だ。
雪はそう感じて、咄嗟に渡り廊下の柱の後ろにしゃがみこんだ。
二人からは見えないけれど、あたりが静かなせいか、二人の会話が聞こえてきた。
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