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“よしっ! イケる!”
誰にも悟られないよう、俺は小さな笑みを漏らし、内心、ガッツポーズを決めた。
「あぁぁぁっ! やっべぇっ! チョコを尻で下敷きにしちまった! ズボンが汚れちまったぁぁ」
尻の辺りがベッチョリと茶色に染まっている俺は、わざとらしく大きな声を上げた。
皆の視線を一身に受けても、もう構わない。
だって俺は、すかしッぺをかました挙句に、少し『味』を漏らしてしまったわけではなく、あくまでも『チョコレート』で尻を汚してしまっただけなのだから。
「まいったなぁ~」
頭をかきながら、困ったような顔をしてオフィスから出た俺は、廊下に出て、扉を閉めた途端、声にならない声で「ヨッシャーーー」と叫び、両手を高々と上げて万歳をした。
そう。
俺は勝ったのだ。
見事、誰にも気づかれることなく、最凶にして最悪の事態を免れたのだ。
周りからの威厳を損なうことのないよう、自らがおかしてしまったトラブルを隠蔽できたのだ。
あとはロッカールームにある、もしもの時の為に備えてあるスーツに着替えるだけだ。
俺は一仕事終えたとばかりに、足取り軽く、ロッカールームへと向かった。
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