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「──沙耶」
「なりません」
私に触れようとした彼の手から私は逃れようと後ずさった。
「ならば……あなたが森のカミと同じ存在であるのであれば、私はあなたには相応しくありません。その目に通ることも許されない身の上です」
自分の身体を抱いて擦る。私は巫女であったのにも関わらず他の男に身を捧げたのだ。このような身で、彼の前にいることが自分で許せなかった。
「私は一族の役目を、一族のために放棄しました。カミに捧げるためのこの身を穢したのです」
涙が零れた。
忘れかけていたはずの、巫女としての資格を失った瞬間の、引き裂かれんばかりの気持ちが蘇る。
「もう、清らかな身ではないのです」
彼は静かに私の言葉を聞いていた。
「私はもう、森には帰れない。私は巫女には戻れない。あなたにお会いする資格は私にはないのです」
こんな穢れた自分を見てほしくない。死んでしまいたいほどに辛かった。
「私はもうあなたと会うことは出来ません」
カミと同等である存在に、穢れた身のまま触れることは出来ない。会うことは出来ない。
それがかつて巫女であった者としての最後の役目だった。
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