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静かに引かれ、私たちは歩き出した。
どこかに導こうとしているかのような彼の足取りに、自然と私の足も前に進んだ。
手を引かれて歩く身体は、さっきよりもずっと軽い。まるで空を歩いているかのようだ。
誰、とは聞けなかった。
背の高い彼は、私の手を握ったまま、ただ前を見据えて無言で歩き続ける。
先を見つめる目元に、透き通る青が見えた気がしたけれど、次に見た時は黒い瞳に戻っていた。見間違えだったのだと思い直して、唇を固く結んで前を向く。
彼には不思議と足音が無かった。滑るように滑らかに木の根の上を行くのだ。
進みながら私は救いの手を差し伸べてくれた相手の姿をじっと眺めてみた。
髪は兄や父と同じように美豆良(みづら)で、耳の横に長い黒髪を結っている。
白い衣は筒袖、ゆったりとした袴を着け、倭文布(しづり)の帯に頸珠(くびたま)、手玉、足結(あゆい)を施し、皮履を履いていた。
まるで祭事にでも参加するかのような格好でありながら、太刀だけが足りなかった。
豪華ではあるものの、あまりにムラの男たちと風貌が似ていたので、私が知らないどこか裕福な生まれの若者なのかもしれないと思い始める。
迷子で蹲っていた私を見つけて、ムラへ戻そうとしてくれている。
身長が違いすぎて顔は良く見ることはできないけれど、よくよく見れば、見知った人の可能性もある。
心地良い沈黙が続く道の途中で、辺りに梅の匂いが満ちた。
顔を上げると、一本だけ、梅の大樹があった。
周りの緑の木々がこの一本の樹木を守るかの如くそびえ立ち、守られた梅の木は零れんばかりの真紅を太い枝に抱えている。
紅い雪を降らすように、辺りに花弁を散らしていた。
「……きれい」
幼い私の喉から、ようやくこぽりと言葉が零れた。
梅の樹はムラにもあるけれど、初めて見るような神々しさだ。
さすがはカミの森にある梅の樹と言うところだろうか。
しばらく二人で立ち止まって大きな真紅の樹を眺めていた。
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