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この人は、「人」ではない。
静かな瞳を見るたびに、私はどこかでこのことを分かっていたはずだ。
そうだと分かっても、今まで聞くことは出来なかった。聞けば会えなくなると思ったからだった。
「……何故、あの夜、私のところへ来てくださったのですか?」
今まで尋ねることがなかったことを、私は初めて彼に聞いた。
「どうやって私を見つけられたのですか」
彼は振り返り腰を屈めて、私を見つめた。優しい瞳の奥には、人とは思えない青の光が灯っている。
「沙耶が私を強く求めたから、見つけられたのだ」
確かに、私は森に帰りたいと願った。
「沙耶が私の森を出たあの日から、探していた。ずっと」
彼の言葉に、嬉しさと悲しさが募った。悲しさの方が、勝っていた。
私の身体は震え出す。可能性は明確な真実となって私の中に現れていた。
「……あなたは、人ではないのですね」
彼は静かに頷いた。
「……私の一族がお仕えする、森の主、なのですね」
彼はまた静かに頷いた。
ああ、と悲しさのあまり感嘆が漏れた。
やはりそうだった。この人はそういう人だったのだ。
「私はカミと人の間の子」
カミの子。
「カミと人とを繋ぐために生を受けた存在」
大婆様が昔よく言っていた、最初の巫女がカミとの間に産んだ子。
伝説にも似たこの話は事実。兄も信じようとせず、ムラの人々も忘れていた存在。それが彼の正体。
だから森を出ないとされるカミとは異なり、彼は自分の森を出ることが可能なのだ。動物の声も、風の声も、木々の声も、聴くことが出来るのはそのため。
その中で私の想いを聞き届け、私を探し、そして見つけた。見つけ出してくれた。
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