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契り
別れた夜から彼は姿を現さなくなった。
これで良かったのだと自分に何度も言い聞かせていたものの、日常を過ごしていく中で不意に淋しさやら悲しさがこれでもかと押し寄せた。
何をしようにも手に付かず、一日がとても長く感じられる。恐ろしいほどの孤独に自分一人が置き去りにされているかのような感覚があった。
きっとこの孤独は前々からあったものだろう。それが彼に出会う前よりも浮き彫りになっただけで。
悲しみに暮れている訳にはいかない、私がそうであれと思ってしたことなのだ。
それが彼にとっても一番良いことであって、彼に出会う前はこの孤独の中で私は暮らせていた。
彼に会う前の自分に戻ればいいだけの話だ。
そうしている中で、皆が眠り続ける「祟り」がもとは巫女であった私の為せる業ではないかと責める者が現れた。
彼らのほとんどは周りをひどく警戒していた他の奥方だった。
肯定も否定もしなかった。
自分のせいだと言われたらそれは紛れもない事実だ。
彼は私のためにここを訪れ、皆を眠らせて私を連れ出してくれていた。それが私の望みだった。
それでも彼のことを言うつもりは断じてなかった。
彼の存在が明らかになれば、ムラや森を潰している彼らはどう出るか。少しでも自分に安らぎを与えてくれた彼を危険な目に合わせたくはない。
カヤはそんな私の異変にもすぐに気づいて励まそうと、夫を呼ぼうと尽力してくれていたが、それはやらなくていいのだと弱く笑って諭した。
来てくれなくて構わない。
自分から巫女の資格を奪った人なのだと思うと恨めしさもあった。
恨めしいとは言っても、それを了承したのは紛れもない自分であることも分かっていた。
私は自ら巫女であることをやめたのだ。そう思うことで自分を納得させた。
彼が私を見つけてくれたことも、何よりも幸せに思えた逢瀬も、すべて夢だったと思えばいい。この牢獄のような場所で、たとえ短い時であれ幸せな時を過ごすことが出来たのだと。
私はここで生きていく以外の道を知らないのだから。
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