契り

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そんなある日の昼間のことだった。珍しく私のもとへ夫から呼び出しがあった。 久々にまほろばの地からここへ赴いた弟君が私に会いたいと言い出したため、その場を設けたとの話が侍女を通して来たのだ。 弟君には昨日、奥方たちが集まる場面で一目会っただけだ。 カヤを伴っての夫への謁見は許されず、私だけが侍女に連れられて部屋を出た。 一度会った時に何か不手際があっただろうかと考えながら、夫の侍女をつれて指定された場所まで向かう。 夫に会うこと自体が久しくなかったことだ。 もしや「祟り」のことではないだろうかと身を固めるも、非常に恐れているのは女性だけであって、夫たちはあまり気に留めていないとも聞いていた。 ならば、何の用であるのか。 「こちらです。くれぐれも粗相のないように」 部屋の前へ案内すると、侍女は不快そうに私を一瞥してから下がっていった。 御簾を超えて中の夫に声をかけてくれても良いものなのだが、あの侍女にとって得体のしれない巫女だった女に対する礼儀などこれで十分ということなのだ。 煙たがられていることが分かっていたから仕方ないと肩を落とすしかなかった。 改めて御簾の外から声をかけようとした時、中から話し声が聞こえてきた。 「兄上、何故あのような田舎者をここへ入れたのです」 田舎者──私のことだろうか。 聞き覚えのない声は弟君のものだろう。呆れているような言い草だった。
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