契り

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「他の女房たちと比べると随分浮いているように見えました」 「お前も見ただろう、沙耶は女房達の中でも格段の美しさを持っている」 これは夫の声。 「確かに、お美しい妾を手に入れられたものだとは感心致しましたが、まほろばから連れてきた女房たちからは酷く煙たがられているようで。このようなところに閉じ込めておくような娘ではないようにも見受けられました。何故得体の知れぬムラにいた娘などをわざわざ妾になど……」 「簡単だ」 鼻で笑うように夫は言う。 「あの女が珍しかったからだ。カミの妻として森の奥でひっそりと祈りを捧げ続ける巫女を、それも特別だと噂される美しい巫女を手に入れて抱いてみたかったのだ」 「で、いかがだったのです。その珍しい巫女を手に入れて」 更に呆れたように弟が尋ねる。 「何も変わらぬよ。抱いてしまえばあれも普通の女に過ぎぬ」 苦笑が聞こえる。夫の声は、私の知らない冷たさがあった。 「世は変わったのだ。今までの古い考えに縛られていてはならぬ。古い神を崇めるなど馬鹿馬鹿しい。あれらは我らを守るためのものではない。ならば人をカミとする方が我々人のためでもあろう。そもそもカミは独りで良い。森やら水やら風、すべてにカミがいてどうする。カミは唯一の孤高の存在であるべきだ」 このまま中へ入ればいいものの、私の身体は動かなかった。動き方を忘れてしまったかのように固まってしまっている。
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