契り

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「だが沙耶はいい女だ。良いものをもらったと思っている」 「というのは?」 「まほろばの男たちは私を羨む。古から続く森の巫女を手に入れて妻とした男などそうはいまい。巫女はカミだけのものであり、死ぬまで清らかな存在で人前に姿を現すことは滅多にない」 羨む。まほろばの男たちが。夫が私を妾にしたことを。 よく、分からない。 「それに沙耶はまほろばでも名の通る強大な森の、不思議な力を持つと噂される巫女だった。知る人ぞ知る稀に見る特別な巫女というわけだ。私にあっさりと沙耶を差し出したくらいにムラの者共はその重大性を理解していないようだが」 自分がそんな特別な存在だとは思っていない。ただただ森のことだけを考え、自然のすべてに耳を傾けてきただけだ。それが当たり前のことだった。 「特別な巫女を娶ったというだけでまほろばでは一目置かれた。大王の耳にも入り、興味を示しているという」 大王が、私に。まさか。 すべてを崩してしまったあの存在が、私を。 「沙耶を手に入れなければ、大王やまほろばでふんぞり返っている者共が私を気に留めることもなかっただろう」 珍しい身の上の女として、私はここへ連れて来られた。そう、夫は言っている。他愛のない話をするかのように、せせら笑いながら。 それでは私は、ただの見世物ではないか。 「沙耶は切り札だ」 聞きたくない。耳を塞いでしまいたいのに、身体が動かない。 「もし大王が沙耶を欲しがり、沙耶を取引に出せば、私の地位もあがる可能性もある。実に良い女だ」 これが本心なのか。私の夫の。私をムラと森から切り離し、ここへ望んだ夫の。 殺すように繰り返していた呼吸が乱れていく。喉元が苦しい。息ができない。
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