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時間も経たない内に、御簾の外から足音がした後、私を呼ぶ声がした。
私を夫の部屋まで案内した侍女の声だ。怒っているような様子に、老婆が慌ててそちらの方へ向かっていく。
要件を聞いてきた老婆がカヤに言伝を伝えた。カヤは少し悩むようにしてから、私の肩をそっと叩いた。
「沙耶さま、旦那様のもとへ来るようにと、今侍女が……」
「いや!」
反射的に拒絶が口から飛び出した。
私が現れないことに夫が気づき、案内させた侍女を叱りつけ、もう一度私を呼びに寄越したのだ。
「行きたくない……!」
あんな夫のもとになど行きたくはない。
「お願い、カヤ、誰にも、誰にも……会いたくない…!」
誰にも。もう。
少しの沈黙の後、カヤは私を静かに呼んだ。
「大丈夫です」
私から離れ、御簾の外へ行ったカヤが侍女に気丈に言い返す声がした。会いたくないという私の意思を尊重してくれたのだと知った。
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