結衣の場合

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「しげもとさん!次、その卵50個割って!」 「はい…」 結衣は時計に目をやると、この厨房に入ってからまだ3時間も経っていないことに気付き、ため息が漏れる。 「重本さん!さっさと手を動かして!」 さっきからヒステリックにあたしに命令するこのババァ 山田さんは、ろくに説明もないまま次々とあたしに仕事を押し付けた。 「強力粉取ってきて!3kgね!」 「どこにあるんですか?」 「知らないわよ!西山さんに聞きなさい!」 …いや、だから誰よその西山さんて… 厨房は朝からまるで戦場のようだった。 8時に初出勤した結衣は、慌ただしく制服を渡され 従業員皆の前で簡単な紹介をされただけだった。 山田さんに端から早口で名前を教えられたが 皆同じコックコートを着ている。 その後も入れ替わり立ち代り人が現れる。 コック帽に大きく名前でも書いてくれないと、覚えきれるわけがなかった。 「その西山さんはどこですか?」 そう尋ねると 「あの人よ!あの背の高い男性!  もうここはいいわ!西山さんに聞いてデザートエリアに行って!」 余裕のない山田さんは結衣を怒鳴りつけた。
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