結衣の場合

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デザートエリアと呼ばれるその空間は 足を踏み入れた瞬間 なんとも言えない幸福感に包まれた。 今まで嗅いだことのない まるで世界中がチョコレートになったような、甘い甘い香りがする空間だった。 うわぁ…やばい! 「重本さんですよね?西山です。宜しく。」 そう言って、背の高いその男の人が結衣に挨拶した。 デザートエリアも香りが違うだけで 先程までグラタンを仕込んでいた、山田のいるエリアと変わらず慌ただしかった。 ただその中でも、西山さんや他の従業員の口調は高圧的ではなかった。 空いた時間に昼食休憩を取り、また戦場へと戻る。 慣れない環境に疲れ果てていたが 指示されるがまま、見たこともないような大きなボール一杯のチョコレートや生クリームを混ぜる作業は 結衣をとてつもなく幸せな気持ちに包んでくれた。 「重本さん、今日はもう上がっていいですよ。お疲れ様でした。」 西山さんにそう言われ、時計に目をやると 既に夕方5時をまわっていた。 「お先に失礼しまーす!」 出入口でそう叫ぶと 「お疲れ様様でした~!」 従業員は作業の手を止めることなく、口々にそう返してくれたが 「ちょっと待ちなさい!」 帰ろうとする結衣を呼び止たのは、山田だった。
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