うっかり。

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一念和尚は茫然と立ち尽くしていた。巨大な和紙に縦に記された 「鹿金」の二文字。 パシャパシャとカメラのライトが光ると共に、どよめきが起こる。 眉をひそめてヒソヒソと囁き合う他の僧侶達。 一念和尚に質問する新聞記者の顔も困惑している。 「和尚、今年は一文字では無いのですか?」 やってしまった。本来なら大きく「金」と書くハズだった。 本番直前、若い弟子が寺のスマホでゲームをインストールした 挙句、4万円も課金していたコトが発覚してムカムカしていた。 「まったく勝手にゲームなんぞやりおって、馬鹿者が。ゲームに 熱中してそんな4万円も課金するなど修業が足りん。馬鹿者が 課金などしおって。これは新年からビシビシ厳しくしなければ。 まったく馬鹿が課金しおって」 頭の中で「馬鹿」「課金」の文字をグルグル繰り返していたら、 うっかり「鹿金」と書いてしまったのだ。マズイ、なんとかして 誤魔化さなければ。 「こ、これは二文字ではありません。一文字です」 「意味は?」 「それは皆さんが調べて書いて下さい」 間違えて書いたんだから意味なんか知らん。適当に記者達が 「黄金の鹿=縁起が良かった」とか書いてくれれば良い。 「ああ、そうですね。判りました」 それ以上ツッコまれること無く記者もニコリと笑う。 良かった、何とか切り抜けた。ホッとする一念和尚。 その日の夜、全国ニュースで一念和尚の姿が流された。 大きな和紙に筆で大きく漢字を書く和尚にアナウンサーの声。 「年末恒例、2016年の漢字が発表されました。今年の漢字は 「鏖(みなごろし)」です」
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