レイ 2.0

169/318
27人が本棚に入れています
本棚に追加
/329ページ
「何かがおかしい。悪いが俺は帰らせてもらう」  男は青年の勘の良さに、内心感心すら覚えた。美しいこの黒豹は自分の危機を正確に把握し、逃れようとしているのだ。だが、逃しはしない。  フレデリックは奥を顎で示した。 「少し著名な者達が来ているため、警備が重厚になっている。何もおかしなことが起きることはない」  言い切ったフレデリックに、怜はその美しい容貌にふと考えるような表情を浮かべた。出入り口で、フレデリックとパンサーという大物がいるという事もあり、パーティーの中心が奥から入口にずれてきていた。  怜はこのパーティーに出たとしても、フレデリックと懇意にしていると知らせるつもりは全くなかった。単にこの場に呼ばれていると言うだけで、十分だと考えていたのだ。男と話す心算もなければ、その側近と親しくするつもりもなかった。  多くの人々は、フレデリックと懇意にすることを望んでいるだろうが、それを一番望んでいないだろう彼はまさに、生贄の如く多く人々に親し気な様を宣伝する羽目になっていた。
/329ページ

最初のコメントを投稿しよう!