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つまり、手っ取り早くいえば、凜花の苗字はきちんとした、由緒のある苗字というわけ。先祖代々同じこの田川地区に住んでいるから「田川」、とかいう適当苗字のあたしとは大違い。……自分で言っててヘコむけど。
でもまあ、ちゃんと由緒のある苗字なんてそんなに存在しないんだから、落ち込むことなんてない。けど、それでも死ぬほど「田川」が嫌だってんなら、ちゃあんと奥の手だってある。
それは何かって? むふふ。そう、結婚。結婚だ。結婚しちゃえば、苗字なんかすぐに変えられるのだ。
小鳥遊(たかなし)に八月一日(ほずみ)に西園寺(さいおんじ)。勘解由小路(かでのこうじ)に有栖川(ありすがわ)に花京院(かきょういん)。
『将来の結婚相手は絶対に苗字で選ぶこと!』
小学校卒業記念に埋めたタイムカプセルに、あたしはそんなメッセージを書いた。
いまでも、その決意はもちろん変わらない。顔や性格や運動神経や頭の良さや、その他諸々を無視してでも、あたしは素敵な苗字の人と結婚する。
田んぼの川で田川さん、森の近くの近森さん、川の西に住む川西さん……そう名乗り始めたご先祖様は、それがかっこいいとでも思ったんだろうか。単純明快で、底が浅くて、どうにもこうにも簡単な苗字。
シンプル・イズ・ザ・ベスト? そんなもの、ぐっちゃぐちゃに丸めてポイ! だ。悲しくも「田川」の家に生まれてしまったあたしは天に願った。
神さま、仏さま、一生に一度のお願いです。由緒があって奥深くて世界で唯一というくらい珍しい苗字、あたしをそんな苗字の人と出会わせて下さい!
果たして、あたしのその願いは、ある日突然叶うことになった。
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