声を聴かせて

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「運命って悲しいわ・・・・」  呟かれた一言が、なぜか心に響いた。  忘れられない言葉になるだろうことを予想して、康平はなぜかずきりと疼いた胸をゆっくりと撫でた。  いつの間にかテンポの変わったBGM。  さきほどより、もっと緩やかで、悲しげなピアノの響き。  どこかで聴いたことがあるような錯覚を覚えるメロディーは、耳から耳へとゆっくりと流れていく。  囁くように語りかけるピアノの音は、意味もなく葉月の声に似ていると思った。 「・・・・わたしはきっと不安なんだわ」  ミルクティーのカップを見つめたまま、葉月がぽつりと呟いた。 「わたしには心残りが多すぎるから」  葉月の言葉は、さっきよりさらに胸の奥に響いた。  おもわず眼を見開いて、そっと苦笑を洩らす。 「・・・・まるで、いますぐにでも死んでしまうようないい方をするんだな」  そういうと、葉月はいたずらっこのように赤い舌を覗かして、小さく笑った。 「運命はどう転ぶかわからない。そうでしょう?」 「まあね」  いつ消え失せるかわからない命。  眼に見えない運命の糸に、誰もが不安を覚えているのかもしれない。  たとえばよくいわれるロウソクのように、その命の長さを知ることができたなら、 自分はその残された時間に、なにを思うのだろう。  冷めかけたコーヒーは、なぜか先ほどより苦味が増したような気がした。  カップを置きながら、ゆっくりと視線を上げる。  窓の外を眺めながら、ミルクティーを口に含む葉月が、なぜかいつもより遠く感じた。  気のせいだろう。  気のせいであってほしい。  儚くも消え失せる存在は、不思議と艶やかに映るものだ。 「わたしは周りの人を不幸にするわ」 「え?」  ぼそりと呟かれた言葉におもわず首を傾げるが、葉月はいい直すことはせず、代わりに大きな眼を細めてゆっくりと微笑んだ。 「あなたは長生きしてね。康平」  鮮やかな青と、太陽の日差しを浴びて、葉月の存在がいつも以上に輝いて見えた。
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