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「・・・・平・・・・康平?」
薄く開いた眼に、見慣れた綺麗な顔がぼんやりと映った。
「・・・・ん、あれ・・・・?俺、寝てた?」
見覚えのある天井と、我が家同然に何度も足を踏み入れているリビング。
眼を擦りながらゆっくりと身体を起こすと、自分の顔を覗き込んでいたらしい智紘が申し訳なさそうに小さく肩を竦めた。
「ごめん。起こすつもりはなかったんだけど・・・・」
「いや、俺も寝るつもりはなかったし・・・・」
大きな伸びをして、座り心地のよいソファーに身体を預ける。
薄いブランケットは智紘がかけてくれたものだろう。
こみあげてくる眠気を振り払うように欠伸を噛み殺していると、急に小さな笑い声が聞こえた。
「珍しいね。康平がウチでうたた寝するなんて」
「そうだな。はじめてかも」
「あまりに珍しいから、おもわずマジマジと見ちゃったよ」
そういいながら、智紘はケラケラと愉快そうに笑う。
こんなふうに笑う智紘を見るのはひさしぶりだ。
自分としてはこういう智紘を見ることのほうが、珍しい。
「春子さんは?」
「買いもの。今夜は康平の好物をつくるって張り切ってたよ」
「そりゃたのしみだ」
笑いながら、ベランダに眼をやった。
穏やかな日差しと、雲ひとつない穏やかな青空。
この空のせいかもしれない。
あの日と、よく似た空の色。
自分の中で特別となっていたあの日の空と、よく似ている。
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