声を聴かせて

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「・・・・どんな夢、見てた?」 「え?」  その言葉に視線を戻すと、自分を真っ直ぐに見つめる智紘と眼があった。 「少し、悲しそうな顔してたよ」  大きな眼をせつなそうに細める智紘の顔に、ベランダから入る太陽の日差しが降り注ぐ。  その姿におもわず眼を見開いて、そして、どうしようもないとばかりに苦笑を洩らした。 「康平?」  クツクツと笑いだした自分を見て、智紘は小さく首を傾げた。  葉月より低くて、それでも透きとおるような声。  さらりと流れていく心地よい響きは、やっぱりよく似ている。  髪をかきあげて、ゆっくりと顔を上げると、やっぱり不思議そうに首を傾げる智紘と眼があった。  人を惹きつけるような澄んだ瞳もよく似ている。  けれど。  似ているのは、それだけだ。 「・・・・最高の夢だよ」 「え?」 「最高に・・・・いい夢を見てたよ」  満足気に微笑んだ康平の言葉に、智紘は安堵したように笑顔を見せた。 「なにか淹れようか。コーヒーでいい?」 「そうだな・・・・トモは?」 「ミルクティー」 「じゃあ、俺も」 「あれ?苦手じゃなかったっけ?」 「飲みたい気分なんだ」  「珍しい」と、笑いながら立ち上がり、キッチンへと向かう智紘の華奢な背中を穏やかな気分で見つめていると、 不意にベランダから吹く生暖かい風が、ふわりと頬を掠めた。  やさしく、包み込むように頬を撫でる風に、うっとりと眼を閉じた。  少し、感傷的になっているのかもしれない。  ひさしぶりに見た葉月は、いままで以上に鮮明に脳裏に映った。  いつまでも色褪せない存在は、痛いくらい胸に刻まれる。  心地よい風と、心地よい胸の疼き。  棘のないその痛みに、意味もなく笑みが零れた。
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