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―――落ち着け、落ち着け。
稲葉幸一は生徒から提出された宿題のワークブック一式を抱え、職員室へ向かう。
廊下ですれ違った体育教諭の鈴木が、「あれ、稲葉先生、顔色悪くないですか? 大丈夫? せっかくのイケメンがくすんじゃいますよ」と、笑いながら話しかけてきたが、ボケ返す余裕もなかった。
冷静なつもりだったが、そうではなかったのだろう。段差もない廊下で、躓いて転んだ。
慌てて散らばったワークブックを拾い集めて立ち上がる。
―――落ち着け、落ち着け。すべては前園先生のために……。
そう心の中でつぶやきながら、稲葉は職員室に戻って行った。
***
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