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小学校に上がった頃私はママに尋ねた。
「なんでアイツが居るの?あんな奴、いらない」
「……パパは外で大変なのよ、私達のために頑張ってくれてるの。
ここはパパのお家だもの、必ず帰って来てくれるもの……ママが悪いのよ。そんな事言わないでね」
そう言って哀しそうに笑顔を作った。
だから、何も言えなくなった。
その頃にはアイツは外でも好き勝手してた事を私は知っていた。
ママの他に女を作っていたのだ。
平日は日をまたぐ前に帰宅、休日は昼過ぎまで寝て過ごし、外出して夜11時頃まで帰って来ない。
服に女の匂いや痕を付けて、平然として帰宅してはママに不機嫌な様を曝す。
寝た振りをしていた私の耳に食器の割れる音や重いモノを殴る鈍い音が聞こえる度に、私は布団の中で体を強張らせ、拳を握り、歯を食い縛った。
たまに定時帰宅する時があるとママは早々と私に寝るように勧め、休日はアイツが目覚めないうちに外に出ているように言い付けた。
私はママを思って言う通りにした。
《あんな奴、いつか追い出してやる!
ママを守ってあげるんだ!》
幼い子供の頭でそう考え、私のせいでママが泣かないように努めた。
アイツなんて、自分勝手で横暴だ。
ママは悪くない。
好き勝手にしてるクセに、暴力を奮うアイツなんて、嫌いだ。
《男なんて、嫌いだ!》
そう、思うようになった。
そんな私は学校で『友達』なんてものを作ろうとしなかった。
「遊ぼう?」と声を掛けてくる子はいたけど
「勉強してる方がマシ」
などと答え返し、周りから自分を遠ざけた。
時折顔や手足に怪我をする私を周りの子は不思議そうにし、質問責めにする。
男の担任は「大丈夫か?」と心配の言葉を掛けてきたが、面倒で家の事を訊かれたくなくて
「平気です。本を読んでいて前も見ず、転んだだけです」
と答えてやり過ごした。
そうするとホッとしたように納得して引き下がる。
心配をしているフリなんだろう……なんて卑屈な考えを持つ子になった。
他人に知られてはいけない。
知られて家に来られるとアイツがママを虐める。
ママが痛い思いをして泣くのは嫌だ。
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