甘くて優しいもの

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「おかえり~♪寒かったでしょ」 (はざま)家の玄関扉を開けると甘い匂いとともに明るく弾んだ声が出迎えてくれた。 「芽衣さ~ん、寒かったよ~♪」 留衣を押し退け公平がズカズカとリビングに向かう。 慌てて靴を脱ぎ、ちゃんと揃えてから留衣が追い掛けると直ぐに、ドンッ!と鈍い音が家中に響く。 「いってぇー……」 「母に触るな」 「はい、ホットチョコだよ~♪ ハッピー・バレンタイン!」 後に続く私の目に無邪気な笑顔の芽衣さんと、その傍で鼻を鳴らして立つ留衣と、リビング・ダイニングのフロア続きの真ん中で、公平が俯せて膝を着き、背中を擦りながら立ち上がろうする姿が映る。 留衣に怒突かれたのだと直ぐに判る。 毎度同じ目に会っているのに、学ばない奴だと呆れて溜め息が出る。 「ただいま、母」 「うん、で、本日の収穫は?」 「ん」と言って通学鞄から留衣は芽衣さんに今日貰ったチョコを差し出す。 芽衣さんは 「流石、我が子!モテる息子で母は嬉しいよ♪」 と満面の笑みでそれらを受け取り、リビングのローテーブルに大切に置いてから私や公平にもホットチョコのマグカップを手渡してくれた。 「俺は芽衣さんに貰えるだけで良いんだけどね」 「うんうん、美希ちゃんに貰えるだけでいいんだよね」 ソファーに座り、チョコを開封する芽衣さんに公平がすり寄るが、相手にもされず流され、尽かさず留衣に反対側へと追いやられる。 「芽衣さんが留衣のチョコ食べるの?」 隣を陣取れた私の問い掛けに、芽衣さんは〈ふふ〉と溢して少し首を傾げ 「そう。留衣ったら知らない人からの貰い物は食べたくないんだって。失礼な奴でしょ? 知らない人から物貰っちゃダメって躾が効きすぎたかな」 なんて微笑む。 留衣は着替えるために自室に入ってしまって、その場に居なかったけど、芽衣さんは嬉しそうに可愛い包みをほどき、箱を開けて中身を口に運んだ。
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