甘くて優しいもの

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夕飯の仕度のために留衣はキッチンに立つ。 私と芽衣さん(と公平)は食事の用意が出来上がるまで他愛ない会話をして楽しむ。 ママはパートの仕事を辞め、正社員の職に就き、時間も休日もバラバラで、夜遅くなる事もあるから、私は芽衣さんと夕飯を共にするようになった。 ママは迷惑だからと頭を下げたけど、その方がバランスの良い食事が摂れると芽衣さんに諭された。 帰りは留衣か公平が家まで送ってくれる。 2人とも送り狼にはならないと芽衣さんと約束している。 ……私相手になりようがないなどと笑ったくらいだ。 「麻琴ちゃんはチョコ、あげた?」 芽衣さんがにこやかに甘い匂いをさせながら尋ねてきた。 「まさか!男にチョコなんて、あげる訳がない!」 「おやおや、今では『友チョコ』なんて言葉もあるよ?男にだけじゃなくて、女の子同士でもチョコ渡すんだよ」 一口、また一口と美味しそうにチョコを頬張り続けながらヘラリと笑う。 「そうそ、バレンタインなんてお祭りみたいなもんなんだよ」 公平が賛同してマグカップを愛しそうに両手で包んで頷く。 「母!晩飯前だぞ!食べ過ぎんな!」 留衣がキッチンから包丁をギラつかせて小言を言ってくる。 芽衣さんはしゅんとなって口の中にチョコを放り込み、二箱目の蓋をそっと閉じた。 正面で公平がニヤつく…… 私は手元のホットチョコを口に運んで頭を働かせた。
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