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私が芽衣さんと出会ったのは小5の夏休みだった。
真夏の炎天下に近所の小さな公園で、一人で遊ぶ私の目に、僅かな木陰の下にあるベンチに座って黙々とスケッチをしていた芽衣さんが映った。
ちょっと年上の『おねえさん』に見えた。
後で私と同じ年の子供を持つ大人だと知って驚いたほど若く見えたのだ。
微かに吹く生暖かい風だけで、汗もかかずに真剣な目差しで鉛筆を走らせていた。
「何描いてるの?」
思わず声を掛けてしまってから私は邪魔をしてしまったかと焦り、応え返されなかったらそのまま立ち去ろうと考えた。
だけど、
「この公園。 ほら、紙の中に公園が入ってるみたいでしょ?」
なんて〈ふふふ〉と笑ってくれた。
しかも隣に座れと手で示してくれる。
私はちょっと嬉しくなってベンチに座り、スケッチブックを覗き込んだ。
芽衣さんとは反対側に持っていた本を置き、答えた後も鉛筆を滑らせて描かれていく様を見続けた。
何も話さず、黙ったまま暑い最中に涼しそうな顔で絵を描き続けている芽衣さんがとても不思議で、興味をもった。
でも話掛けてはいけないような気もしたから、黙っていた。
私の額から汗が伝う。
木陰といってもジリジリと照り付ける日差しが土の地面からでも反射して当たり、暑くて堪らなかった。
暫くすると芽衣さんが
「名前、何て言うの?」
ってチラっと目線だけを向けて話掛けてくれた。
「麻琴…………安住、麻琴」
「麻琴ちゃんね。 私は間芽衣。暑いのに外で遊んでるなんて凄いね」
「おねえ……芽衣さん、も外に居るじゃない。 暑くないの?」
「ふふふ……暑いよ」
子供にしては生意気な口調で、笑いもせず返した私に、芽衣さんは嫌な顔もせず笑顔を見せて、スケッチブックで熱気を扇ぐ振りをした。
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