小5の夏

3/4
18人が本棚に入れています
本棚に追加
/17ページ
扇いだ後もまた鉛筆で紙の中に公園を描き続け、数十分程すると立ち上がり、 「う~……ん!」 と腕を突き上げて伸びをすると 「じゃあ、またね。 あんまり長く外にいちゃダメだよ、倒れちゃうからね」 そう言って左手でズボンのポケットを探り、絆創膏を取り出して差し出してきた。 「?」 「血、乾いてるみたいだけど、ちゃんと消毒してから使ってね」 私が絆創膏を受け取るとにっこりとしたまま手を振り、公園から出ていった。 背中を隠すほど長い髪を揺らして、スケッチブックを団扇換わりにしながら歩いていく姿をボーっと眺めた。 『またね』と言う事は次も会えるのかな、なんて思って、私は少し嬉しくて、痛みも感じていなかった脛の擦り傷に視線を移してはにかんだ。 それから数日、芽衣さんとは公園で会い、少しずつ話をした。 「麻琴ちゃん小5なんだ。私の息子も同じなんだよ、留衣っていうの。知らない? 1月にね引っ越してきて、麻琴ちゃんと同じ学校に通ってるよ」 「へぇ……知らない」 「そっかぁ~、クラスが別かな。 難しそうな本持ってるね。麻琴ちゃんは勉強が得意なの?」 「別に……好きなだけ」 「ふふふ……留衣に聞かせてやりたいな。留衣なんか勉強出来ない子だから。 私に似たの、可哀想……ふはっ……今頃家中の掃除して、お昼ご飯の用意でもしてるかな」 「家事、しないの?」 「私は家事が苦手なのです! やると留衣が嫌そうな顔する……いつからだっけ?忘れちゃった、へへへ」 屈託ない笑顔で、子供相手に嫌な顔もせずに会話を楽しんでくれる。 いつも一人でいた私を不思議がらず、何も聞かず、自分の話を面白可笑しく話す。 仕事は自宅で紙やキャンパスに絵を描く事。 旦那さんはいなくて、息子と二人暮らしな事。 いつも息子に怒られる事など……大人とは思えない素振りで笑って話す。 それが私には心地良くて、楽しくて、芽衣さんと会える時が私の楽しみになった。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!