【1】秘密の恋人

15/30

390人が本棚に入れています
本棚に追加
/382ページ
「えー!」 三木さんはフフッと可笑しそうに笑っていた。 クリニックの午前中はお上品な年配の患者が占める中、彼だけが独特の雰囲気を醸し出している。 その彼が視力検査で呼ばれれば、女性陣はこぞって注目する。 皆が彼に注目していた。 「千八百円です。」 私はその中でも冷静だった。 淡々として仕事を遂行する。 毎度一万円札で支払う彼に、 「五千、六千、七千、八千と…、二百円のお返しです。」 無表情で釣り銭を渡した。 その間の三木さんは、彼のお顔を間近で幸せそうに観察している。 骨の上に被った表皮は皆が平等にあるべきだと、私は兄を思い浮かべながらつい顔を顰めてしまう。 「え…?」 その顔に驚く彼。 「お大事になさって下さいね。」 けれど私は何事もなかったかのようにニコリと笑った。 .
/382ページ

最初のコメントを投稿しよう!

390人が本棚に入れています
本棚に追加