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僕は今日、2時間の昼寝で一人の人生を垣間見た。20代前半であろう彼女の名前は、ない。あったとしても、僕には知る必要がない。彼女に会うことはもうないからだ。まさに一期一会である。 彼女の一瞬の一生を操るのは僕だ。彼女に会うことが出来たのは僕だけで、それは生み出した張本人の権利だ。そうして一抹の快感を得る。現実の人間に興味がないと診断されたのは、様々な存在のない不出来な想像に出会っているからかもしれない。 彼女は僕の存在を知らない。僕を見つめることもない。彼女の生きる世界と僕の生きる世界が混じることはなく、それは僕が一番興味深いと思う点だ。何もない空間に全ての立体を浮かび上がらせることが出来る。存在するはずのない、一瞬で終焉するその物語を僕の脳内でたったの2時間で構築し、作り上げる。なのにその世界に飛ぶことができないのは、残酷としか言いようが無い。 せめてバーチャルであれば、触れることができるかもしれないのに。 ただ間違いなく、彼女の世界は僕が全てだ。僕の意思で、全てが決まる。 そんな彼女のことで、僕は初めて人間に対して胸を熱くさせた。 構築した人間の様々な人生を見てきた中で、こんなことは初めてだった。苦悩も、幸福も、誕生も、死も、どれだけ衝撃な場面を描かれたとしてもただの構築された世界としか思うことがなかったのに、目を覚ました瞬間、僕は現実に胸がズキズキと痛み、気付けば涙を流していた。
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