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僕の夢の中の感覚では、彼女の人生はたったの3分。僕はその3分で、心を奪われた。 それはとても広い図書館だった。利用者は少なく、とても静かだったように思う。季節は真夏。天井近くの窓から日光が室内を明るく照らす。白いフリルのついたTシャツに、ふんわりとした可愛らしい花柄のロングスカートの彼女が居るのは宇宙や神秘のことについての本が並ぶ片隅。そこでセミロングのなびく髪で顔を隠し、俯いている。 この世界に音はない。ただ、僕は彼女の異変にすぐ気がついた。それは僕が彼女を作り出したからだ。 彼女は、泣いていた。 聞こえないはずのすすり泣く音が、僕の耳に届いた。誰も彼女の存在に気付かない、その音が僕以外の図書館の利用者に聞こえることはない。 天上から俯瞰的にカメラでズームしたように見下ろす僕は、すぐに彼女が誰かから逃れる形でそこにいるんだと判断した。 構築者の僕が泣かせたわけではない。その一瞬に過ぎてしまう3分間は、どうしても僕の物にはならない。終わらせることはできても、僕に虚無感を生み出すのみとなる。ただただ、見守るのだ。 だいたいこれで1分だろうか。あと2分ある。図書館の全体を見渡す僕は、あと数分で終わりを迎える彼女の人生、図書館の利用者の特徴をひたすら目覚めた時に忘れていたことがないように、目を凝らし、夢が夢で終わらぬよう願った。 すると突然、背の高い男性が入館するのが目に入る。その男性はとても足が長く、一歩が大きい。僕はすぐさまこの男性が彼女を泣かせた男性だと気がついた。何故か彼は真っ白い白衣を身に纏っていた。なびく白衣が救世主のヒーローのようだ。 その行き先は間違いなく、ヒロインのもとだ。
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