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白衣の彼のその細く長い指が、彼女の顔に触れる。僕はカメラクレーンが急降下するように2人の顔がはっきりと確認できるほど近づいた。
彼女は彼の手を払いのけ、そっぽを向く。泣き顔を見られたくないのだろう。本当は約20cmほど身長の違う彼を見上げ、その流れる涙を優しく拭ってもらいたいとでも思っているのではと、普通の人間の感情がその肉体に渦巻いていることを想定し、そう読み取った。
だが、彼女だけではなく彼にもそんな感情は宿る。払いのけられた手は再び彼女の顔へと伸び、そっぽを向いた顔を無理やり自分の方へ向けさせた。2人の重なる視線を間近で見る僕はまさしく、いけないものを見てしまった状態。彼女の全てを包み込むように優しく微笑む彼の目の前には、つられて笑う彼女。
2分は経っただろう。いや、もう3分たったか。彼女と彼の人生も終焉だ。
僕はもしかして映画監督だっただろうかと自分で錯覚するほどに良い絵で終わった。最期なんてカメラクレーンを急上昇させ、再び天井近くの位置に戻り、笑い合う2人を俯瞰で撮った。僕の自由自在の映像、残ることのない映像、2人に近づくことなどできない夢の映像。
昼寝から目覚めた僕は、2時間の睡眠で感じた3分間をすぐメモに書き込んだ。僕しか知らないあるはずのない人生をあったことのように刻んでいく。止まらない。もしかすると興奮していたのかもしれない。あることないこと、書いた気がする。でもこれでもいいんだ。それが実は嘘で真実ではなかったとしても、元は何もないのだから。
百人を超す創造人。その中で一番の悲劇。ロミジュリのような2人が出来上がった。
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