彫刻の君

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 雨宿りしてただけなのに。通ってただけなのに。いや、それは間違ってる。死んでから ここに通ってたんだ。自覚した途端身体が透けてきた。彫刻の君を見た。すっと柱の彫刻を指差した。 「私です。あなたが彫ったんです」 「ああ……そうだ」  会社を途中退職した。趣味で続けた彫刻が県展やら入選が続いたんだ。彫刻家になったんだ。 「あれは君なのか。一番好きな作品なんだ」    恋だと思った。自分の理想なわけだ。 「そうですか。嬉しいですね」  彫刻の君なのか分身なのか。教会の優しさなのかはわからない。心が凪ぐ微笑を見た気がした。ああ、美しい。  そうして私は更に薄く透けていった。  教会には噂があった。雨の日でも無いのに濡れる長椅子がある。彫刻の様な美しい人が座っているという。    それはピタリと無くなったのだった。  完
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