彫刻の君

4/5
前へ
/5ページ
次へ
 その日は雨の日だった。 「いつまで通うんですか」 「はい?」  彫刻の君が後ろの席から声を掛けてきた。 「ここにいつまで居るんですか?」 「いつまで?」    意味が今ひとつわからなかったが答えた。 「来れるうちは来ますが」 「……仕事は何を?」     思わぬ質問だった。自分自身について興味を持たれるとは思わなかった。 「仕事は、…あれ?」    なんだ。自分の仕事がわからない。混乱した。それでも彫刻の君は質問を続けた。 「歳は?」 「歳は、…歳?」 「名前は?」 「名前は、」 「最初に雨宿りしに来た日のことは?」 「雨宿り、……確か。いつも通り定時で上がり帰宅して。いや、違うな。買い物だ。商店 街で大通りを抜けて、ああ。そこでスリップしたトラックが横倒しになって、」 「それでどうなりました?」 「自分は…死にましたね」
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加