第1章 木漏れ日の木の下で

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何気なく過ぎていく日々。それと比例して何も変わることのない町の景色。 私はこの町で16年間育ってきた。 私の住む町は札幌。その中でも自然や住宅街が多い比較的田舎のあたりに住んでいるのだが、地下鉄一本で街中に出ることができる、特に不自由のない町だ。 私はこの町が好きだ。この町の人も景色もすべてが大好きだ。 この変わることのない日々を与えてくれるこの町が、とても心地いいのだ。 そして、私の友人も何ら変わりない。私はいま、その友人の一人である相川翠と公園のベンチで、屋台で買ったアイスを食べている。 10年以上一緒にいる腐れ縁の彼は、私の変わらない友人関係の中でも珍しい、唯一の幼馴染だ。 彼が隣にいる日々はもう当たり前で、幼馴染というよりは家族という認識の方が強いぐらいだ。 「暑いなぁ」 木漏れ日が差し込む木の下のベンチで、翠はぼそっとつぶやいた。彼の頬にはうっすら汗が見える。 「北海道も随分暑くなったよな。よく寒いって言われるけど・・・夏は十分暑いわ」 翠はまた呟くと、手に持っているソーダ味のアイスをペロリと舐める。 「ほんとよねぇ。本州の人とは体感温度が違うから、いくら気温の数値が本州より劣ったって暑いことに変わりはないし」 私も翠に同調すると、自分も手に持っているオレンジ味のアイスを同じように舐めた。 沈黙が生まれる。 翠はふぅっとため息をつき、木漏れ日が差し込む木を見上げた。 私は、こんな風に何も気負いせず沈黙でいられる関係がとても好きだった。 元々お互い無口なので、黙っている方が楽だった。 盛り上がるときは一緒に盛り上がって、ぼーっとしたいときはぼーっとして。 こんなわがままな時間を続けていられる、翠との関係が好きだった。 翠もきっとそう思っているだろう。それでなければいくら腐れ縁とはいえ、こんなに長くは一緒にいない。 私はまたペロリとアイスを舐める。 翠も同じようにアイスを舐めた。 こんな私たちは、傍から見ればどんなふうに見えているのだろう。 恋人には見えないと思う。恋人のような楽しさは感じられないから。 友人・・・にも見えないだろう。やはり兄妹みたいな感じだろう。 これほどの落ち着きを見せる友人関係はあまり見たことがない。 私はそういう意味で、彼に特別な感情を抱いていたといってもいいだろう。
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