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その時少女は初めて、はっきりとした口調で、はっきりとしたボリュームで、私に言葉を伝えた。
その素直な感謝を受け、私は安心した。
「いいえ」
私はそう答え、「それじゃあ行くね」と言ってその場を去った。
少女はそんな私に小さく手を振り続けていた。
*
私が急いで翠の元へ行くと、翠は待ちくたびれたのかベンチに座ったまま眠っていた。
木漏れ日が彼の顔にかかる。木が風に揺れる音、それと同時にゆらめく木漏れ日、翠の寝顔。
これまでも、これからも、ずっとこんな景色が私の隣にいてくれればいいと願った。
私は翠の足を蹴る。
「何寝てんのよ、起きなさい!」
すると翠は急な足の衝撃に驚き、飛び上がり「いて!!」と叫んだ。
「なんだよ、お前が遅いのが悪いだろ!何してんたんだよ」
翠は寝起きで目が完全に開いていないまま私に反論する。私はそんな姿を見て笑みを零す。
「いやぁ~、私ももう大人になったからさ。こんなところでうたた寝してるやつとは違うの~」
私がそう揶揄うと、翠は「なんだとー!!」と言いながら立ち上がった。
「キャーこわーい」棒読みで私はそう言い、走って公園の出口へ向かう。
「あ、こら待ちやがれ!!」翠はそう言いながら、私の後を追う。
翠も私を追う。私も翠を追う。
お互いがお互いを必要とする。
お互いの存在が何よりもかけがえのないものである。
それが今の私たちのすべて。
友情や恋愛なんてまだ全然わからない。
私にとって、こうして翠と過ごすことが「日常」であり「当たり前」であったから。
きっと翠だって同じことを思っていただろうと思う。
だからこの時は、こんな日々がなくなるなんて微塵も思っていなかった。
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