第1章 歌声を

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学校帰りの静かな河川敷で、私は今日も一人、夕焼けの空の下ギターを弾き、歌う。 川の音、ギターの音色、自分の歌声、カラスの鳴き声、車の音。聞こえるのはそれぐらいだ。 今日は風もなく心地がいい。声も通る。 私の弾き語りに聴き入り、足を止める通行人もいる。 一曲が終わるとその人たちは拍手をして、軽くお辞儀したあと通り過ぎる。私はその瞬間がとても好きだった。 私の歌を聴いて、喜んで帰ってくれる人がいる。 私が河川敷に来て弾き語りの練習をするのは、それが一番の理由だった。 ライブハウスで歌うでもなく、CDを作るでもなく、立派な路上ライブをやるでもなく、この河川敷を通る人たちに自分の歌が少しでも届けばいいなと思っていた。 こんな生活を続けるのももうすぐ1年がたつ。弾き語りを続け、何曲か作曲もしたりした。 ここ最近では自分の作った曲を歌うことが多い。 日々の嫌なことをすべて忘れられる。自分の世界に入ることができる。 現実逃避、というのも一つの理由なのかもしれない。 何にせよ、私はこの河川敷が一番好きな場所で、ここで弾き語りをすることが一番の幸せの時間なのである。 * 「おい、実乃梨・・・お前本当に運動音痴だよな・・・」 クラスメイトの綾崎秀が、50メートル走で派手に転んだ私に呆れたように言葉をかける。 体育の時間は高校の授業の中で一番嫌いだ。なぜなら私は大の運動音痴なのだ。 「もう!うるさいよ!私だってなりたくて運動音痴になったわけじゃ!!」 私が涙目でそう訴えると、秀は私が言い終わる前にわかったわかった、と宥め、かがんで背中を私に向けた。 「え・・・?」 「ほら、足怪我してるだろ。保健室まで連れてってやるから」 そう言って秀はおんぶをする体制になる。私は一気に羞恥心が込み上げてきた。 「いや!!そんな!!私重いから!」 私は顔を真っ赤にして手をぶんぶんふりながら拒否する。だが秀は一向にやめる気配を見せない。 「そんなこと言ってられねぇだろ。捻挫して歩けないんじゃねぇの?」 秀は私の足を見ながら言う。確かに、両手両足は擦り剥いて血が出てるし、右足の足首に関しては捻って捻挫してしまった。情けない。 「そ、それは・・・」 「なめんな、俺意外と力あるから。おとなしくおぶさっとけ」 秀は真剣なまなざしで私の目を見つめる。秀は本気で心配してくれていたのだ。
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