第1章 歌声を

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こんなに真剣に私のことを心配してくれていたのに、恥ずかしいなどと言って拒否してしまったのが申し訳なくなってきた。 「じ、じゃあ・・・お言葉に甘えて・・・」 拒否をした罪悪感はあるものの、羞恥心が消えたわけではない。秀は「ん」と一言軽く返事をしたあと、また正面に向き直りおんぶの体制をとった。 私はそっと彼の背中に手を乗せる。 「本当にありがとう」 私は一言礼を言うと、彼の背中の上にそっと乗った。 すると秀は、私の足に手をまわして「よっ」と言いながら軽々しく持ち上げた。ふわっと視線が高くなる。秀の香水の匂いを感じる。 「確かに重いな」 秀がぼそっと呟く。 「うるさい!!バカ!!」 私は秀の肩をぽかぽかと叩く。 すると秀は「ははっ冗談だよ」と笑った。 * 「もう恥ずかしいよーーーーー!!!!!!」 私はいつもの河川敷に向かって叫ぶ。昨日の穏やかさとは大違いだ。夕焼けも昨日より心なしか真っ赤に感じる。 はぁ、はぁ、と呼吸を整える。そしてギターケースからギターを取り出し、チューニングを始める。 ポーン。ポーン。とギターの弦の音が静かな河川敷に響き渡る。 ギターの音を聞くと落ち着く。いつも安らぎをくれるギターの音色は、こんな日にももちろん例外だ。 一通りチューニングが終わり、よし、弾こうと思った矢先、手のひらの絆創膏に目が行く。 一瞬忘れていた今日の記憶が脳を駆け巡る。 そして、一気に羞恥心に襲われる。 「うわーーーーーーーーーー!!!!!!」 私はまた叫んだ。 全く落ち着かない・・・こんなに恥ずかしい思いをしたのは何年ぶりなんだろう。 体育で転んだところを見られただけでも恥ずかしいのに、そのあとおんぶされて保健室まで連れてってもらったなんて!!! まだ秀の香水の匂いが離れない。心臓の音が鳴りやまない。 せっかく親切にしてくれたのに、こんなことを考えてドキドキしている自分もまた許せなく、恥ずかしい。 「くっそーーーー!!!!!!やだやだやだやだやだや・・・」 「えっと・・・何かあったんですか?」 私が叫んでいると、後ろから少年の声がした。 私はハッとして、その声のする方を向く。 そこには、中学生ぐらいの小柄な伸長の顔の整っている少し童顔な少年が、私を心配そうな、怯えた表情で見ていた。
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